技術解説

温度調節計内部から発生する高周波ノイズについて

 温度調節計には、PID演算を行ったり、各種警報判断などの処理を行うためのマイクロプロセッサー(MCU)を搭載しています。また、計器を小型化するためにスイッチング電源を採用するのが一般的になっています。
MCUを含んだデジタル回路は、数十から数百(MHz)の基本クロックで動作しており、スイッチング電源は、主に20-100(kHz)程度の周波数でスイッチングを行い、絶縁トランスをドライブすることにより、各二次回路に回路電流を供給しています。
これらの回路は、各々の基本周波数の整数倍の周波数成分をもつノイズを発生し、これが電源線、通信線や、各I/Oライン等から外へ漏洩し、場合によっては他の機器に対して電波障害等を引き起こすことがあります。
そこで今回は、温調システムにおけるノイズ発生箇所、EMIを管理する上での弊社の取り組みについて触れたいと思います。

1.EMI(電磁気的干渉)とは

 これらのEMI(電磁気的干渉)は、主に大きく二つに分けることができます。


伝導ノイズ:ケーブルなどを伝搬するノイズで、比較的低周波の成分(数百kHzから数十MHz程度)が問題になります。


放射ノイズ:ケーブルなどから空間へ伝搬したり、回路のプリント配線パターンなどから直接空間へ伝搬していく放射ノイズをいいます。
高周波の成分(数十MHzから1GHz)が伝搬しやすい性質を持ちます。

以下の図に温度調節計を含んだ温調システムの発生ノイズ箇所を示します。

温調システムにおけるノイズの伝搬経路

 このように、温度調節計以外にも様々な箇所でノイズが発生する危険があり、各機器のノイズレベルや配線方法が適切か? などシステムトータルとしてEMIを管理することが重要と考えます。

2.弊社製品におけるEMIレベルの管理

 弊社では、国内、海外にも適応できるよう、EMIノイズに関しては次の規格を採用し、原則として弊社の製品はこの規格をクリアするよう設計されています。

○適応規格

適用規格:欧州規格 EN55011(工業用,科学用及び医療用機器-無線周波妨害特性-限度値及び測定方法)
クラスA(住宅環境に割り当てられた施設及び住居用に使用する目的の建造物に給電する低電圧電力系統に直接接続された施設を除く,全ての施設での使用に適した装置)

・伝導ノイズ
 電源端子から漏洩する伝導ノイズレベルの限度値

周波数範囲(MHz) 限度値 dB(μV)
準尖頭値 平均値
0.15-0.50 79 66
0.50-30 73 60

 

・放射ノイズ
 空間へ直接伝搬する放射ノイズレベルの限度値

周波数範囲(MHz) 準尖頭値限度値dB(μV/m)
30-230 40
230-1000 47

 

また、弊社のCEマーキング製品は、認証機関の認証試験をすべて合格したものになっていますので、確実なノイズ管理がなされているといえます。

〇測定値のバラツキについて
 ノイズ測定には、常に測定値のバラツキが存在します。これは、ノイズの周波数成分が高周波であることと、空間伝搬するものを測定するという必要から、次のような問題生じるためです。

  ・ケーブルなどのセッティングのバラツキにより、空間的な結合が変わり、ノイズスペクトラムが変わる。


  ・放射ノイズを測定する試験所のサイトアッテネーション(測定電波の減衰率)がサイト(場所)により異なったり、気象条件などにより変わる等の要因がある。


  ・製品の個々のバラツキ(使用素子のスピードのバラツキ等)が生じる。


 この問題に対処するためには、規格値に対してある一定のマージンをとる方法が得策です。弊社では、各製品のノイズマージンを規格値に対して、-6dB確保することでこの問題を解決しています。

 

○供試機器セッティング
 特に、放射ノイズについてはターンテーブル上に機器をどのよう配置するかは詳しく規格に規定されておらず、ノイズがより発生しやすい条件で測定するような表現がありますが、最終的には、測定者に任されているといってもいいでしょう。
弊社では、図のように配置するのが標準となっており、比較的ノイズが多く出る条件での評価を行っています。

 

◎セッティングの代表例

*放射ノイズは、ターンテーブルを360°回転させ、かつアンテナ高さを1~4mの間で変化させて最大のノイズレベルを探す。


* 補足資料
○測定方法
 各ノイズの測定方法を示します。


・伝導ノイズ

 伝導性ノイズの測定セットアップ

放射ノイズの測定セットアップ例

放射ノイズ測定サイトの写真