技術解説
熱電対の原理について
1.はじめに
産業界で最も多く使われている温度センサに熱電対があります。
この測定原理や実用的な三法則については、「熱電対についての豆知識」でも、触れられています。
この原理や法則について、もう少し詳細に触れてみたいと思います。
多少、式が出てきますが、ご容赦の程、お願い致します
2.熱電対の測定原理
1)ゼーベック効果
図1のように、「2種類の均質な金属導体A、Bで閉回路を作り、両接点の温度をT1とT2とするとき、T1>T2なら回路に電流iが流れ、T1=T2なら流れない。T1<T2なら逆向きの電流iが流れる」。1821年、T.J.Seebeckが発見した、ゼーベック効果といわれるものです。
電流が流れるということは、起電力が発生してて、この起電力を熱起電力と言います。
熱起電力は、2種類の導体の材質(A、B)と接合点の温度(T1、T2)によって決まります
2)熱起電力に関して
熱起電力を詳細に見ると、ペルチェ効果によるものと、トムソン効果によるものとの、和とみることができます。
ペルチェ効果による起電力は、異種金属を接触させておこる、接触起電力で、金属の種類と温度により変わります。図2の閉回路では、
πAB(T1)+πBA(T2) =πAB(T1)-πAB(T2)
となります。
πABは、金属A、Bに対するペルチェ係数で、温度の関数となります。
また、トムソン効果による起電力は、同種の金属内においても温度勾配がある場合におこります。
σA(T2-T1)+σB(T1-T2)+(σB-σA)T1-(σB-σA)T2
となります。
σAとσBは、それぞれ金属A、Bのトムソン係数です。
熱起電力は、これらの和とみることから、
E=πAB(T1)-πAB(T2)+(σB-σA)T1-(σB-σA)T2
と表す事ができ、Eは金属A、Bが決まると、T1、T2のみで決まる関数となります。
ですので、
E=EAB(T1)+EBA(T2)=EAB(T1)-EAB(T2)
とも、表す事ができます。
3.熱電対の三法則について
1)均質回路の法則
豆知識では「同じ金属線(均質な金属)のみでは、熱電対として熱起電力を取り出せない」とあります。図3のように、均質な金属Aからなる閉回路では
E=EAA(T1) +EAA(T2) +・・・+EAA(T5) =0
となります。
このとき、E≠0の場合は、金属線に不均質な部分が生じていることになります。
また、任意の温度Tにおいて、
EAA(T)=0
となります。
図4のように均質な金属A、Bからなる閉回路において、その中間に異なる温度がかかった場合、
E=EAB(T1) +EBB(T4)+EBA(T2) +EAA(T3)
=EAB(T1) +EBA(T2)
=EAB(T1) -EAB(T2)
[EBB(T4) =EAA(T3) =0より]
となり、起電力は接合点T1とT2のみの影響をうけて、中間の温度の影響をうけないことがわかります。
熱電対を装置に取り付ける際に、その途中の環境を気にしなくてよいのは、この法則があるからです。
2)中間金属の法則
豆知識では「熱電対の間に異種金属が挿入された際、その両端に温度差がない場合は、温度計測に影響を受けません。挿入された異種金属間に温度差が生じた場合、誤差の原因となる」とあります。
図5のように、均質な金属A、Bからなる回路に、均質な異種金属Cを挿入した場合、
E=EAB(T1)+EBC(T3A)+ECB(T3B)+EBA(T2)+EAC(T3B)+ECA(T3A) ・・・・(式1)
とあらわすことができます。
金属Cの両端に温度差がない場合(T3A =T3B =T3)、
EBC(T3A) +ECB(T3B) =EBC(T3) +ECB(T3) =EBC(T3) -EBC(T3) =0
同様に、EAC(T3B) +ECA(T3A) =0 となり
E=EAB(T1) +EBA(T2)
=EAB(T1) -EAB(T2)
となります。
金属Cの両端に温度差がない場合、起電力は金属Cには関係なく、接合点T1とT2のみで決まるものとなります。
金属Cの両端に温度差がある場合(T3A ≠T3B)、式1のままとなり、金属Cと金属A、Bそれぞれとの接合点の温度で決まる起電力分の誤差が生じます。
例えば、図6のように、制御盤のところにコネクタがあり、コネクタを介在して熱電対が温調計と接続しています。コネクタのピンが異種金属で、制御盤の内外の温度差があるとき、起電力の誤差が生じることになります。
図7のように、A、B、Cでそれぞれ熱電対をつくり、接合点の温度をT1とT2とした時の事を考えます。それぞれの起電力は
EAC=EAC(T1)-EAC(T2) ・・・・(式2)
ECB=ECB(T1)-ECB(T2) ・・・・(式3)
EAB=EAB(T1)-EAB(T2)-EAB=EBA(T1)-EBA(T2) ・・・・(式4)
となります。式2、式3、式4の右辺と左辺をそれぞれ加えると、
EAC +ECB-EAB=
{EAC(T1)+ECB(T1)+EBA(T1) }-{EAC(T2)+ECB(T2)+EBA(T2) }
となります。
ここで、右辺第一項と第二項をそれぞれみてみると、異なる3種類の金属が接合された閉回路が、等温度の空間に置かれた時の起電力の事を示しています。この時の起電力は0となる事がわかっています。
よって
EAC+ECB-EAB=0
EAB=EAC+ECB
となります。つまり、金属AとBからなる起電力は、中間金属Cを介在して求めた、金属AとCからなる起電力と、金属CとBからなる起電力との和に等しくなります。
図8のように、金属A、Bのそれぞれ一方の端点に金属Cを挿入した場合の起電力を考える。
E=EAB(T1)+EBC(T2)+ECA(T2)
となります。先述の式より、
EBC(T2)+ECA(T2)=EBA(T2)
となり、
E=EAB(T1)+EBA(T2)
=EAB(T1)-EAB(T2)
となります。金属Cの両端が同じ温度の場合、起電力は金属Cには関係なく、接合点T1とT2のみで決まるものとなります。
この原理は、金属Cの部分を計測機器の回路とみることができます。計測機器の端子間の温度が同じなら、測定誤差が生じないことがわかります。
また、金属Cの部分を測温点とみると、一定温度の金属に接触する事で、温度を測定する事ができる熱電対ともみることができます。この方法を利用した例としては、一般的にパラジウムなどの高温金属の融点を用いた校正に利用する、ワイヤ法があります。
3)中間温度の法則
豆知識では「T1,T2,T3と温度の異なる点を熱電対にて、温度計測した場合、T1-T2 間の熱起電力E1とT2-T3 間の熱起電力E2の和は、T1-T3間の熱起電力E3に等しい」とあります。
図9のように、均質な金属A、Bからなる熱電対において、両接合点の温度がT1,T2である時のEをE12、T2,T3である時のEをE23、T1,T3である時のEをE13とすれば、
E 12=E AB (T1) - E AB (T2)
E 23=E AB (T2) - E AB (T3)
E 13=E AB (T1) - E AB (T3)
と表せ、
E 12+E 23=E AB (T1) - E AB (T3)
となり、これは上記E13の右辺と等しいため、
E 12+E 23=E 13
となり、T2を中間温度と呼びます。この式からもT1、T2、T3それぞれの温度差から得た熱起電力の和と全体の熱起電力の和が等しいことが分かります。
中間温度T2として標準温度(例 0℃)を選び、任意の測定点の温度T1,T3,…,Tnとその温度の標準温度に対する起電力を求めておけば、任意の測定点間の起電力を計算で求めることができるようになります。
例えば、温度指示計と熱電対の組み合わせでは、測定点の温度T1、基準となる標準温度T2=0℃、温度指示計の測定端子温度T3 (内蔵の温度センサーで測定)であった時に、T1-T3間に生じる起電力を入力回路で取り込み、T2(0℃)-T3間の起電力分を内蔵の温度センサーの測定値で補正することができます。これらが既知の値となることで、中間温度の法則を用いてT1-T2(0℃)間の起電力を求めることができます。
ここで、基準接点温度0℃と任意の温度との間に生じる起電力はJIS等の熱電対の起電力表に記載されているように既知の値であるため、温度換算することで目的の測定点の温度T1を知ることができます。
4.実際の測定回路の説明
1)補償導線を使用した測定回路
弊社製品を用いて温度計測をする測定系を例にとって、今までに説明した法則がどのように使われているかを示していきたいと思います。測定系として、熱電対T-101S,温調計(FB,SRZ,RB等)という構成とモデル化したものを図10に示します。
図10のように熱電対素線A・B,補償導線C・D,温度調節計Fがあり、各接合点の温度がT1,T2,T3であるとき、
AからBへ反時計回りにEを計算していくと、
E = E AB (T1) + E BD (T2) + E DF (T3) + E FC (T3) + E CA (T2) ・・・(式1)
と表せ、Fが中間金属により結ばれているとすると、
E = E AB (T1) + E BD (T2) + E DC (T3) + E CA (T2) ・・・(式2)
となります。式2の右辺の第2項と第4項に中間金属Xを挿入すると、
E = E AB (T1) + E BX (T2) + E XD (T2) + E DC (T3) + E CX (T2) + E XA (T2) ・・・(式3)
となります。式3の右辺の第2、第3、第5、第6項は、
E BX (T2)+E XA (T2) = E BA (T2) =-E AB (T2)
E XD (T2)+E CX (T2) = E CD (T2)
とまとめることができ、
E DC (T3) =-E CD (T3)
となるので、式3は、
E = E AB (T1) - E AB (T2) + E CD (T2) - E CD (T3) ・・・(式4)
と表せます。
補償導線の起電力は、
温度Tが室温+α(100℃以下または150℃以下)のとき、
E AB (T) = E CD (T)
となるように作られているので、
E CD (T3) = E AB (T3)
となり、式4は、
E = E AB (T1) - E AB (T3) (式5)
と表すことができ、温度調節計Fが測定する温度は、測定点の温度T1と計測器の端子温度T3のみによって求めることができ、T2の影響を無視できるようになります。
実際の熱電対では、熱電対素線に、その種類に適合した補償導線を接続しています。
また、熱電対を使用する計測器のほとんどは温度測定端子部の温度を内蔵された温度センサーによって計測し、上記の式5の右辺の第2項にあたる「-EAB(T3)」の部分を補正しています。
このような温度測定回路とすることで、正しく温度計測を行うことができるようになっています。