技術解説

出力方式と制御性について

 コントローラを用いてヒータなどを制御する場合、コントローラでの制御演算結果をヒータなど実際の制御対象に電力として供給する際の方式には様々なものがあります。
 一般的な出力方式としては、一定の出力周期の中を出力のパーセンテージに相当するOn時間として、On/Offの接点信号に変換したり接点信号の変わりに一定電圧のパルスに変換する「時間比例出力方式」と呼ばれるものがあります。
 また、制御演算結果をそのまま連続出力(例えば4-20mA)として出力し、位相制御ユニットなどを用いて電力変換する場合もあります。

 制御を行う立場からいえば、連続出力により位相制御を行うことが「定常安定性」や「過渡時の即応性」を向上させることになるため望ましいのですが、位相制御を行う場合には、高調波電流や高周波ノイズの問題があること(詳細は、技術解説ホームページの「位相制御で発生する高調波電流と高周波ノイズの問題について」をご参照下さい)や、操作器にコストがかかることも否めません。
 今回は、比較的安価に構成できる「時間比例出力方式」を利用する際の注意事項等を、制御を行う立場からご説明したいと思います。
 制御演算結果をOn/Offの接点信号として出力する場合は、その先の操作器としてリレーが接続されることが一般的です。
 この時の時間比例出力周期は、以下の2点を考慮して決定します。
  ①リレー接点の寿命を考慮し、頻繁なOn/Offが行われないように周期を決める(周期を長くする方向)
  ②制御対象の応答速度を考慮し、出力周期によるOn/Offの影響が制御安定時の測定値PVの動きとして現れないようにする(周期を短くする方向)
弊社コントローラで出力方式を接点出力に選んだ場合、時間比例出力周期の初期値として20秒が設定されています。
 制御対象の応答速度が速い場合、時間比例出力周期の設定が初期値のままでは制御安定時の測定値PVに周期的な乱れが生じることもあります。
 このような場合には、周期を短く設定して頂くことをお奨めします。
 但し、あまり短く設定しますと、リレー接点の寿命を著しく縮めてしまうことがありますので、そのような場合には、後に説明します「SSR」の使用をお奨めします。
 操作器としてリレーを使う場合の注意点としては、ノイズに対する対策を行うことが上げられます。
コントローラから出力される接点出力は、一定の出力周期の中を出力のパーセンテージに相当するOn時間として出力しており、実際にはコントローラのサンプリングより速い時間間隔でOn/Offの判断を行っているため、交流電源のどの位置でOn/Offされるか分かりません。
 そのため、大きな電流が流れている状態で接点をOffにする可能性もあり、それに伴うノイズの発生は避けられませんので、コントローラを始め周辺機器への影響を抑えるためにもノイズ対策を行うことをお奨めします。
 制御演算結果を一定電圧のパルス信号として出力する場合は、その先の操作器としてSSRが接続されることが一般的です。
 この場合は、リレーとは違い接点の寿命についての心配はありませんが、以下の点を考慮して時間比例出力周期を決定する必要があります。
  ①出力の分解能が十分取れるように周期を決める(周期を長くする方向)
  ②制御対象の応答速度を考慮し、出力周期によるOn/Offの影響が制御安定時の測定値PVの動きとして現れないようにする(周期を短くする方向)
 SSRの仕様として、ゼロクロス切換が行われないものであれば、①の出力分解能の問題は殆ど考える必要はありません。(但し、リレー同様ノイズの問題はあります)
 しかし、SSRがゼロクロス切換方式であった場合、コントローラの出した出力と実際に加えられる電力に違いが生じるケースがあり、このような場合には実際に加えられる電力側の分解能を考慮する必要があります。

 

 例として、電源周波数50Hz、時間比例出力周期1秒、出力4.4%の場合を考えます。
  電源周波数50Hzということは、交流電源の半波(一山)は10msとなります。
  1秒の周期で4.4%の出力ということは、44msのOn時間になります。
この条件で、下図のようなタイミングで出力が加えられると、出力が12vになった時点ではSSRの接点は繋がらず、電源が0vを過ぎってから接点がOnになり、出力が0vになった時点ではSSRの接点はOffにならず、電源が0vを過ぎった時点でOffになります。(図中斜線部分がOn状態)
この例では、実質50msの間SSRの接点が繋がったことになり、出力5%相当の電力が加わったことになります。

 このように、ゼロクロス切換方式のSSRを使用する場合は、電源周波数と時間比例出力周期によって実質的な出力の分解能が決まってしまうので、時間比例出力周期をあまり短く設定すると出力の分解能が荒くなってしまい、制御安定時の「定常安定性」が損なわれる可能性がありますので、注意が必要です。

 制御対象の応答速度が速くて、時間比例出力周期を極端に短くしなければならないような場合は、連続出力による位相制御を行うか、操作器として単相サイリスタユニットTHVシリーズのご利用をお薦めします。
また、コントローラとして、REX-F9000やHAシリーズのパワーフィードフォワード機能を利用することでもこの問題を解決することが出来ます。
 THVシリーズ(コントローラからの連続出力を受けてゼロクロス出力を行うモードで使用した場合)や、パワーフィードフォワード機能を使用したコントローラでは、コントローラが出そうとしていた出力と、実際に供給された出力の差を補正する機能が付加されていますので、より安定した制御を実現することが可能です。(THVシリーズでコントローラからの電圧パルス出力を受けてゼロクロス出力を行うモードでは、出力の補正は行われませんのでご注意下さい)