技術解説

位置比例制御

1.位置比例制御とは

 電動弁を用いて流体流量を操作し、温度などのプロセス量を制御する制御方式を位置比例制御と呼んでいます。位置比例制御に用いる電動弁は「コントロールモータ」とよばれ、モータの回転力でバタフライ弁など流量制御弁を動作させる構造になっており、プロセス量の制御を行っているPID調節計の制御出力値と等しい回転角度(流体制御弁の開度または角度)になるよう制御されます。なお、PID調節計の出力値と電動弁開度(位置)が比例的に制御され動作することから、「位置比例制御」または「位置比例動作」と呼ばれているようです。

2.位置比例制御のためのシステム要素

 位置比例制御により温度などプロセス量の制御を行う場合、PID調節計のほかに「コントロールモータ」と「ポジショナ」が必要になります。

1)コントロールモータ

 コントロールモータは、弁の開度制御用に用いられる単相電動機(コンデンサモータ)で、2極の巻き線にあたえる交流電源の極性を切り替えることで正転/逆転させ、モータに接続された弁の開度を所望の値となるように動作させます。コントロールモータには「開度帰還抵抗」とか「フィードバック抵抗:FBR」と呼ばれる弁の開度に比例した抵抗値を出力する機構が組み込まれており、この抵抗値を測定することで、弁の開度状態を計測できます。開度帰還抵抗には摺動部・ブラシに寿命があり、開度値の分解能はあまり高くありません。

2)ポジショナ

 PID調節計の出力値と弁の開度が等しくなるようにコントロールモータの通電を制御するのがポジショナと呼ばれる装置になります。なお、開度指令入力に DC 4~20mAなどの電気的信号を用いているポジショナを電電ポジショナと呼んでいます。

3.PID調節計とコントロールモータの組み合わせ方法について

1)PID調節計・ポジショナ一体方式

 弊社調節計の「位置比例PID動作」を用いる構成になります。

調節計の機種により開度帰還抵抗:FBRを使用しないで制御する事も可能です。
また、専用のオートチューニングが搭載されているため位置比例制御に適したPID定数を求めることができます。

2)電電ポジショナ・コントロールモータ一体方式

 位置比例制御部分がコントロールモータ内部に組み入れられているため、標準的なPID調節計を使用することが可能になります。

位置比例制御について

3)PID調節計・電電ポジショナ・コントロールモータ独立式

4.位置比例制御による温度制御の例

1)開度帰還抵抗:FBRを用いた温度制御の場合

2)開度帰還抵抗:FBRを使用しない温度制御の場合

5.コントロールモータの制御に関して

 前述のように、コントロールモータの制御はポジショナ部の出力リレーにより、モータの巻線に供給する電源の極性を変え正転/逆転させています。
通常、制御性能を向上させるためには、より細かな操作が必要になりますが、リレーやモータを頻繁に動作させるとそれぞれの寿命に悪影響をもたらします。
このため、ポジショナによる出力リレーを用いたコントロールモータの制御においては、通常「中立帯」や「動作ヒステリシス」を設けて、頻繁な切り替えを防いでいます。

1)中立帯

 ポジショナにおけるモータ開度制御は、「PID調節計の出力値:MV」と、「コントロールモータの開度値:FRB」を一致させるようにオープン側およびクローズ側の出力リレーを操作します。
コントロールモータの開度制御においては、モータや操作機の寿命を考慮し頻繁なオープン/クローズの切り替え動作は極力避ける必要があります。
この要件を満たすため、一般的にオープン側およびクローズ側の出力切り替え判断に中立帯(不感帯)を設け、この領域においては、オープン側およびクローズ側の両出力共にそのステータスを「Lo」して頻繁なオープン/クローズの切り替え動作を低減させています。

2)動作ヒステリシス

 オープン側出力またはクローズ側出力それぞれに対する「Hi/Lo」切り替え時のバタツキを低減させるために、強磁性体の磁化曲線に見られる磁気ヒステリシスのようなヒステリシス量を、オープン側出力およびクローズ側出力それぞれの「Hi/Lo」切り替え判断に適用しています。

なお、当社調節計においては、動作ヒステリシスを中立帯の内側に設定しています。

6.最後に

 位置比例制御は、構造的に温度制御ループの中に流量制御弁の開度制御ループがカスケード的に組み入れられているため、良好な制御結果を得るためにはPID調節計の性能だけでなく流量制御弁の弁開度制御部分の制御性能も影響します。
特に、流量制御弁の弁開度制御において開度帰還抵抗:FBRを用いる方式では、開度帰還抵抗に不具合が生じると制御不能となる場合も発生してしまいます。
このような背景から、近年では開度帰還抵抗を使用しないでも位置比例制御ができる制御方式が主流になってきています。