技術解説
電力操作器の放熱器(ヒートシンク)について
1.はじめに
ヒータなどを用いた温度制御では、ほとんどといっていいほど”電力操作器”とよばれるものが使用されています。電力操作器には、ゼロクロスSSRや位相制御器(サイリスタユニット等)といったものがあり、一般にトライアック等の半導体リレーが用いられています。(下図参照)

半導体リレーには、接点に必ず電力損失が発生し発熱を生じます。この発熱を上手に放熱しなければ、半導体の許容温度を超えてしまい、破壊に至る事があります。
しかし、設計に余裕を取りすぎると大型化してしまうという問題が起こります。
今回は、いかにヒートシンクを最少化できるかという問題についてその一例を示し、その可能性について検討してみました。
以下にその説明をしていきます。
2.半導体の開閉損失とヒートシンクの設計基準
ヒータの電力操作器に使用されている半導体リレーには、一般的にトライアックやサイリスタ等がよく用いられています。
トライアックの場合、開閉電流に対して下表のように電力損失が発生します。(全ON時)
開閉電流 | 電力損失(半導体損) |
5A | 5.25W |
10A | 12.5W |
20A | 25.0W |
40A | 50.0W |
100W | 125.0W |
*この値は、それぞれの半導体によって異なるためあくまで参考値です。
これらの値に対して生じる半導体の温度上昇をある一定値以下に抑えるために放熱器(ヒートシンク)が必要になるわけです。
放熱器は、電力操作器の最大定格電流を基準に設計されています。
従って、仕様に規定された設置条件、周囲温度では定常的に電流を流しても半導体の温度が許容できるよう放熱器を設計します。
3.放熱器の小型化
単位時間あたりの発熱量が同じ条件で放熱器を設計する場合、これを小型化するには次の手法が一般的です。
•自然空冷(ファンなどによる強制空冷を用いない)の場合、放熱フィンの羽根を最適配置する等の構造の最適化をはかる。
•ファンなどによる強制空冷を行って、放熱効率を上げ放熱器を小型化する。
•水冷の熱交換器等を用いて熱交換率を高め、小型化をはかる。
しかし、これらの手法は次の問題を抱えています。
•自然空冷では、放熱効率が余り上げられず、大型化が避けられない。
•空冷用のファンは有限寿命であり、定期交換や故障などによる停止時を想定した対策をあらかじめ施しておく必要がある。
•水冷による放熱効率は良好であるが、水冷用のホースやポンプ等が必要であり、また水漏れなどの対策も必要になるので扱いにくい。
4.放熱器の最適設計
先にも述べたとおり、一般的に汎用製品の放熱設計は最大定格電流を基準に設計されています。しかし、温度制御システムにおいては、負荷率(設定温度で安定するときの出力量)が100%に近い状態で安定する場合もあれば、数%で安定する場合もあります。特に後者の場合、出力量が100%の領域はわずかなのに、最大電流値に合わせて電力操作器を選ぶと放熱上は過剰な設計になってしまう場合があります。逆に、これに合わせて最適化すれば、放熱器を小型化できる可能性があります。(下図参照)

このように、制御対象が決まっており、使用条件(最大負荷率期間、定常時の最大負荷率等)、周囲環境(放熱器周囲温度など)が明確に限定できる場合、過渡的な温度上昇を考慮した放熱器の最少化設計が行えるということです。
その場合には、
•入念な条件設定とシミュレーションなどの裏付け
•素子の温度が一定以上あがらないような機構(実効電流リミット機能、インターロック機能等)
が必要になります。