技術解説
突入電流を抑制する電力制御器の機能について
1.ランプヒーターなどで突入電流が発生する理由
一般的にランプヒーターやSiCヒーター、純金属系ヒーターなどは、温度に対する抵抗値変化が大きく、場合によっては、定格電流の3~10倍程度の電流が流れます。
また、これらのヒーターは、応答特性が速く、ヒーター素子の物性によって異なります。例えば、500(℃/秒)程度の高速昇温素子などは、突入電流が流れる時間は一時的(数秒程度)ですが、その間に、素子に電流ストレス等を与えてしまう等の弊害が生じます。
2.突入電流による弊害
このような、突入電流が引き起こす弊害としては、次のようなものが挙げられます。
① ヒーターのON/OFFを制御している半導体スイッチ(サイリスタ、MOS-FET、IGBTなど)がターンオンした瞬間にヒーターに過大電流が流れ、場合によっては、ヒーター素子が破壊に至る。
② 電源電圧が一時的に低下し、周辺の装置に、リセット等の悪影響を及ぼしてしまう。
③ 過大電流が頻繁に印加され、ヒーター素子に劣化をもたらす。結果的に、寿命が短くなったり、場合によってはヒーターが断線してしまうなどの不具合が起こる。
④ 過電流警報器などが誤検知を発生させてしまう。(①と同様箇所)
⑤ システム保護用にヒューズ等が挿入されていると、過大電流が原因で、頻繁に溶断が起こってしまう。
*下図の番号が、それぞれ問題となる箇所です。
3.突入電流を抑制する方法とその特徴について
突入電流を抑制する方法としては、以下の三つの方法が一般的ですが、それぞれについて、メリットとデメリットを説明します。
・電力制御器でソフトスタートをかける方法
メリット : 簡易な構成で、安価に作成できます。
デメリット : 立ち上げ時だけではなく、定常時にも働くため、温度制御などで、設定値変更を行った際等も、システムとしての応答特性が遅くなります。
・予備加熱によって、ヒーターを加熱してから制御を開始する方法
メリット : 定常時におけるシステムの応答特性を本来の仕様に維持できます。
デメリット : 立ち上げ時のヒータが低抵抗状態での、応答は遅いままです。また、この機能は電源投入後に一度しか効かない仕様が多く、出力を停止した後に再度加熱する時などでは起動しないケースもあります。
・高速にヒーター抵抗値を算出して、定格を超えない最適な位相角で出力を与える方法
メリット : 立ち上げ時の応答を上記の方法より高速に行なえます。
また、定常時におけるシステムの応答特性を本来の仕様に維持できます。
デメリット : 高速、高精度な電流と電圧の計測回路が必要になり、かなり高価になります。また、初期に設定する項目などが多くなり、設定などが複雑で、難しくなります。
このような、特徴を考慮して、システムに合った電力制御器を選定する必要があります。
4.電力制御器の機能の活用上の注意点(ソフトスタート機能)
ここでは、弊社製電力制御器「THV-1シリーズ」に内蔵されたソフトスタート機能の活用方法をご説明します。
一般的にソフトスタート機能は、電力制御器の動作中は、常時作動する機能です。
そのため、先にも述べたように、ソフトスタートの設定時間を長くすると、突入電流を抑制することができますが、システムの応答性が遅くなってしまいます。
逆に、ソフトスタートの設定時間を短くすると、システムの応答性は、速くなりますが、突入電流が増す傾向になります。
概して、突入電流が発生しやすいランプ系のヒーターは、高速昇温の装置に使われる事が多いので、ソフトスタートの設定時間は、短いことが望まれます。これは、突入電流を押さえることと、相反するため、ソフトスタートの設定時間を最適に設定しないと、制御性が悪化したり、制御性を優先すると、突入電流が増加したり、その結果、ヒーター素子にストレスを与えるというやっかいな問題に直面します。
このような場合は、以下の内容を考慮し、調整を行うと、より最適にシステムを調整できます。
ランプヒーターでのソフトスタートの設定時間による突入電流の発生の違いをイメージしたグラフを上に示します。
このように、突入電流を押さえると、安定までの時間が長くなり、システム上の不都合が生じますので、電流の最大値がどの程度許容できるかを把握し、ソフトスタート時間を調整すると、制御性も良好になります。
ただし、印加できる電流の最大許容値や、印加時間の制限等の定格値は、各ヒーター素子により、様々ですので、その点を考慮し、調整を行うことが必要になります。
また、ヒーター保護用のヒューズは、そのヒーターの特性に応じて、選定する必要があり、電力制御器に内蔵されているものと兼ねることは、安全上、好ましくありません。