技術解説

熱電対の基礎(原理と仕組み)

1.熱電対って何だろう

 『熱電対』は、2種類の異なる金属線を先端で接合した(対にした)温度センサで、両端の温度差に応じて発生する微弱な電圧(熱起電力)を利用しています。
都合の良い事に、2種類の金属線の組み合わせが同じならば、太さや形状などによる影響を受けないため熱電対は、加工性が良く広く産業用温度センサとして使用されています。

<例>

 熱電対の原理は、ゼーベック効果と呼ばれ古くから知られています。(1821年:ドイツの物理学者トーマス・ゼーベック “Thomas Johann Seebeck” が発見)
当ホームページに於いても、『熱電対の原理について 熱電対についての豆知識の解説』および『熱電対についての豆知識 金属と温度と電気の関係』など簡単ではありますが解説していますのでご参照願います。
さらに詳細に知りたい方は、『熱電対』『ゼーベック効果』にて検索してみるのもよいでしょう。

2.熱電対の3つの約束 (三法則)

 1)均質回路の法則
 2)中間金属の法則
 3)中間温度の法則

 

1)均質回路の法則

 『均質回路の法則』と書くと、聞き慣れない方には難しく聞こえるかもしれませんが、要は、同じ金属線(均質な金属)のみでは、熱電対として熱起電力を取り出せないと言う当たり前の法則です。
同種の金属構成された場合、熱電対にはなりえません。

2)中間金属の法則

 『中間金属の法則』は、読んで字の如く熱電対の中間に異種金属が入った際の法則です。
熱電対の間に異種金属が挿入されて際、その両端に温度差がない場合は、温度計測に影響を受けません。 挿入された異種金属間に温度差が生じた場合、誤差の原因となる訳です。

3)中間温度の法則

 『中間温度の法則』は、下図のようにT1,T2,T3と温度の異なる点(別に3点でなければいけない訳ではなく説明の便宜上3ヶ所にしました)を熱電対にて温度計測した場合、T1-T2間の熱起電力E1とT2-T3間の熱起電力E2の和は、T1-T3間の熱起電力E3に等しいと言う法則です。

3.主な熱電対の種類

 熱電対を温度センサとする機器(温度調節計,温度計,記録計、等々)のカタログを読むと、温度入力の種類の欄などに、熱電対と記して 『K, J, T, E, R, S, B,・・・』などのアルファベットが記載してあります。このアルファベットこそが、熱電対の種類を表す記号で日本工業規格(JIS)や国際電気標準会議(InternationalElectrotechnical Commission : IEC)等で規格化されています。
それでは、温度計測の際にどのタイプの熱電対を選んだら良いのでしょうか?

一般的な熱電対選択の目安を挙げると、下表のようになります。

種類 特  長
K 熱起電力の直線性が良好で広く工業用途で使用されています。
1000℃以下の耐酸化性に優れているが還元性雰囲気での使用には適さない。
J +側金属に鉄を採用しているため耐還元性に優れているが酸化性雰囲気での使用には適さない。
T 熱電対を用いた低温測定に使用されます。+側金属に銅を使用しているため高温の酸化性雰囲気で使用には適さない。
E 耐酸化性に優れているが還元性雰囲気での使用には適さない。
N K熱電対を改良した熱電対で高温域の使用に優れている。
R 貴金属(-側金属は白金)を用いた熱電対で高温測定に適している。
熱起電力が小さいため低温での温度計測には適さない。
高温においても水素ガスや金属蒸気が発生する場合は適さない。
S 貴金属(-側金属は白金)を用いた熱電対で高温測定に適している。
熱起電力が小さいため低温での温度計測には適さない。
高温においても水素ガスや金属蒸気が発生する場合は適さない。
B 貴金属を用いた熱電対で1000℃以上の高温測定に適している。
熱起電力が極めて小さく600℃以下の温度計測は不可能。

4.熱電対の補償導線って何?

 熱電対センサは、受信器までのリード線(導線)に熱電対の種類に応じた補償導線を必要とします。(熱電対素線にて受信器まで配線する場合は必要ありませんが、熱電対素線を長く使用する事はコスト面および配線等々で不都合がある場合が多い)
前ページの中間温度の法則でもわかるように、熱電対の端子部と受信器の端子部の温度差分の熱起電力を補う必要があります。この温度差分を補う役割を果たしているのが補償導線です。

<例>

上図では、熱電対センサの端子箱(40℃)内にて補償導線に接続している例を示しています。
熱電対センサは、60℃分(100℃ – 40℃)の熱起電力を発生し、補償導線は、15℃分(40℃ – 25℃)の熱起電力を発生(補償)しています。
受信器側の端子部温度は、受信器に内蔵された温度センサによって計測され補正されます。

5. 冷接点温度補償は熱電対に必須

 熱電対センサを利用する受信器のほとんどは、冷接点の温度を補償する回路を内蔵しています。熱電対の熱起電力は、0℃を基準接点としていますので測定点と受信器の端子間の温度差により発生する熱起電力から温度を知るためには、受信器側の端子温度が判らなければ温度計測はできません。
冷接点温度補償とは、受信器側の温度分の熱起電力を補い正確に温度計測するためのものです。

6.熱電対の階級,許容差について

構成材料
の記号
旧記号
(参考)
測定温度 階級 許容差
K (CA) -40℃以上 375℃未満 クラス1
(旧0.4級)
±1.5℃
375℃以上1000℃未満 測定温度の±0.4%
-40℃以上 333℃未満 クラス2
(旧0.75級)
±2.5℃
333℃以上1200℃未満 測定温度の±0.75%
-167℃以上  40℃未満 クラス3
(旧1.5級)
±2.5℃
-200℃以上 -167℃未満 測定温度の±1.5%
J (IC) -40℃以上 375℃未満 クラス1
(旧0.4級)
±1.5℃
375℃以上 750℃未満 測定温度の±0.4%
-40℃以上 333℃未満 クラス2
(旧0.75級)
±2.5℃
333℃以上 750℃未満 測定温度の±0.75%
T (CC) -40℃以上 125℃未満 クラス1
(旧0.4級)
±0.5℃
125℃以上 350℃未満 測定温度の±0.4%
-40℃以上 133℃未満 クラス2
(旧0.75級)
±1.0℃
133℃以上 350℃未満 測定温度の±0.75%
-67℃以上 40℃未満 クラス3
(旧1.5級)
±1.0℃
-200℃以上 -67℃未満 測定温度の±1.5%
E (CRC) -40℃以上 375℃未満 クラス1
(旧0.4級)
±1.5℃
375℃以上 800℃未満 測定温度の±0.4%
-40℃以上 333℃未満 クラス2
(旧0.75級)
±2.5℃
333℃以上 900℃未満 測定温度の±0.75%
-167℃以上  40℃未満 クラス3
(旧1.5級)
±2.5℃
-200℃以上 -167℃未満 測定温度の±1.5%
N -40℃以上+375℃未満 クラス1 ±1.5℃
375℃以上1000℃未満 測定温度の±0.4%
-40℃以上 333℃未満 クラス2 ±2.5℃
333℃以上1200℃未満 測定温度の±0.75%
-167℃以上  40℃未満 クラス3 ±2.5℃
-200℃以上 -167℃未満 測定温度の±1.5%

R,S

0℃以上1100℃未満 クラス1 ±1.0℃
0℃以上 600℃未満 クラス2
(旧0.25級)
±1.5℃
600℃以上1600℃未満 測定温度の±0.25%
B 600℃以上1700℃未満 クラス2 測定温度の±0.25%
600℃以上 800℃未満 クラス3
(旧0.5級)
±4.0℃
800℃以上1700℃未満 測定温度の±0.5%

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