技術解説

ヒータの制御に変圧器(トランス)を用いる際の注意点

1.はじめに

温度調節計をお使いいただく各種熱処理装置では、加熱のためにヒータが使用されます。
ヒータの定格電圧が低い時は、電源電圧を位相制御した後に変圧器で降圧し、ヒータを制御する方法が一般的です。

本稿では、下図のように変圧器一次側に電力調整器を設置し変圧器二次側のヒータを制御する方式について、注意点を解説いたします。

図1.電源-電力調整器-変圧器-ヒータ回路図

2.変圧器一次側制御における注意点

変圧器一次側制御で特に注意が必要となるのが、変圧器の磁気飽和です。磁気飽和が発生すると、変圧器一次側に過電流(励磁突入電流)が流れ、ヒューズ断線による制御の停止や、生産システムの故障につながります。

電力調整器の制御で磁気飽和が発生する事例としては、以下の3つが考えられます。

① 制御開始時
制御開始時に一気に大きな出力を出すと、磁気飽和する場合があります。

② 瞬時停電からの復帰時
瞬時停電から復帰した際は、制御開始時と同様に磁気飽和により過電流が流れる可能性があります。

③ 変圧器二次側断線時
変圧器二次側が断線した場合、変圧器一次側には励磁電流だけが流れます。

一方で、電力調整器は正常に制御できる最小の電流値(最小負荷電流)があり、変圧器一次側にはこの値以上の電流を流す必要があります。励磁電流が最小負荷電流より小さい場合は電力調整器が正常に動作できず、交流の半波だけONするなど、磁気飽和を起こす可能性があります。

3.磁気飽和への予防対策

理化工業の電力調整器を使用する際には、以下の対策で磁気飽和を防ぐことができます。

① 制御開始時の対策
まず、電力調整器で変圧器を制御する場合には、必ず位相制御方式を選択して、ソフトスタート機能を使用してください。
位相制御は細かな出力調整が可能なため、ソフトスタート機能を使用することで磁気飽和を起こさずに制御することができます。

② 瞬時停電からの復帰時の対策
オプション機能の変圧器一次側制御保護機能※を使用してください。この機能では、瞬時停電を検知した際に電力調整器が制御出力を抑制します。また、制御出力を抑制している状態で電流が復帰した場合にソフトスタートが行われるため、磁気飽和を防ぐことができます。
※特許6128217号

③ 変圧器二次側断線時の対策
変圧器二次側断線時には、変圧器一次側制御保護機能の使用 と、ブリーダ抵抗の接続 の2つの対策が必要です。
変圧器一次側制御保護機能を使用することで、変圧器二次側断線発生時に出力を抑制できるため、磁気飽和が防止されます。
また、安全のため変圧器一次側にブリーダ抵抗を図2のように並列に接続し、電力調整器に最小負荷電流以上の電流が流れるようにしてください。これにより、変圧器二次側断線時でも電力調整器が正常に運転できるようになるため、極性の偏りによる磁気飽和を防ぐことができます。

図 2.変圧器-ブリーダ抵抗の接続図と電力調整器の最小負荷電流

最終的に、変圧器を介してヒータ制御をするには、以下の対策が必要です。
・制御方式を位相制御にして、ソフトスタート機能を使用
・変圧器一次側制御保護機能を使用
・ブリーダ抵抗を変圧器一次側に並列接続

4.おわりに

今回の記事では、変圧器一次側で電力調整器を使用する際の注意点と対策について解説しました。装置稼働時に思いがけずヒューズが切れてしまうことや、ブレーカーが落ちるなどの問題が生じた場合、変圧器にて磁気飽和が起きている可能性がありますので、この記事を参考にしてご確認ください。