技術解説

電波の反射と通信距離への影響

1.はじめに

私たちが無線機器を使用する中で、通信距離は気になることだと思います。例として、弊社製品の“NWSシリーズ”は通信距離100mとうたっています。通信距離とは、見通しの取れる環境で測定された距離(見通し距離という)であり、理想的な環境に近い場合での性能です。しかし、私たちが実際に使用する環境では、通信距離は100mより短くなることや、通信ができない場合もあります。

それでは、なぜ通信距離が短くなったり、通信できなくなってしまうのでしょうか?空間や環境の影響、システム障害、機器の故障など、様々な原因が考えられますが、ここでは電波の性質による原因を考えてみます。一見見通しが取れていても、通信距離が低下する場合、壁や天井などの反射の影響を受けている可能性があります。今回は、反射による通信距離の低下と、反射という現象について解説します。

2.電波が反射するとどうなる?

電波の反射は、何が問題となるのでしょうか?そこで、図1のような直接送信器から受信器に伝搬する電波(直接波)と、地面で反射して受信器に伝搬する電波(反射波)を考えてみましょう。このとき受信器は直接波と反射波が合成された電波が受信されます。この直接波と反射波が合成されてしまうことが問題となります。

図1 直接波と反射波の合成

直接波と反射波では経路が異なり、反射波は直接波に比べて少し遅れて伝搬します。つまり異なる位相の電波が合成されます。図2のように、ある時間(赤線)の振幅(黒丸)を考えると、同位相であれば強め合って振幅は倍になりますが、位相差があるとき(図2では反射波が120°遅れている)は、合成されることで振幅が元より小さくなる場合があります。このため、通信距離は短くなってしまいます。ちなみに完全に逆位相の場合は、振幅は0となり通信が出来なくなります。

図2 電波の合成

図1のモデルは直接波と反射波だけですが、実際に私たちが使用する環境では図3に示すように回折した電波や透過した電波など、様々な電波が複雑に伝搬し合成されます。このように送信器から出た電波が、複数の経路を経由して伝搬することを“マルチパス”といい、マルチパスにより電波の強さが変動してしまうことを“マルチパスフェージング”といいます(※マルチパスは送受信器1対1で考え、自身の発する電波が影響することであって、周囲の機器の影響は含みません)。無線機器を使用する場合は、反射が起きにくいように、送受信器ともに見通しが取れる位置に設置することや、地面から距離を取って設置するのが良いのです。( 関連記事のリンク:電波の伝わり方と性質 )

図3 電波伝搬の実際

3.電波の反射はなぜ起きる?

無線機器を使用する場合は、壁や地面から距離を取って設置するのが良いのですが、そもそも、どうして電波は反射するのでしょうか?電波が金属に当たると反射するのは、鏡が光を反射するのと同じで、可視光であれば実際に確認することもできます。しかし、金属以外の物質でも反射することを知らない方もいるのではないでしょうか。ここでは金属以外での反射のメカニズムについて考えてみましょう。

図4のように空気とコンクリートが接し、空気中を伝搬していた電波がコンクリートにぶつかるモデルを考えます。これは、住居やオフィスなどの建物で良くある構造です。電波はコンクリートにぶつかると反射して進行方向を変え、一部がコンクリートの中を透過波として伝搬します。

図4 反射と透過

結論から言うと、電波が伝搬する空間と空間に特性インピーダンスの差があると反射が起きます。特性インピーダンスは、式(1)に示すように各物質の物性値である誘電率と透磁率の比で決まります。身近な物質の比透磁率µr ≒ 1ですが、比誘電率は表1のように大きな差があります。このことから、各物質の比誘電率の差が特性インピーダンスの差に影響することがわかります。

式(1) 特性インピーダンス

([1]出典:誘電率・透磁率データベース URL:https://permittivity.jp/index.html)

図5に示すように空気とコンクリートの境目で、空気の比誘電率 ≒1から、コンクリートの比誘電率 ≒ 6~8程度に変化し、特性インピーダンスが変化します。この変化により反射が起こりますが、反射の度合いは式(2)に示す反射係数で分かります。Γ = 1 の場合、全ての電波が反射し、Γ = -1の場合、位相が反転して全ての電波が反射します。特性インピーダンスの差が無い場合、つまりZ0 = ZL の場合、反射係数Γ = 0となり、反射せずそのまま透過します。

図5 特性インピーダンスの変化
式(2) 反射係数

以上のようにイメージすることは難しいですが、数値で考えると、どんな物質でも反射していることがわかります。重要なのは、比誘電率が少しでも異なれば反射を起こすこと、紙や木材など反射しないイメージのある物質でも反射することです。

4.おわりに

今回は無線通信における、電波の反射による通信距離への影響と反射という現象のメカニズムについて解説しました。電波は周囲の環境や設置方法などの影響を受けやすく、性能が大きく変わる場合があります。電波は目に見えないですが、現象を理解することで、本来の性能を発揮することも可能です。実際に使用してみないとわからないことも多いため、弊社では無線センサ変換器“NWSシリーズ”のデモ機貸し出しや打合せなども行っています。ぜひ一度、お問合せください。

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