技術解説
製造業における消費電力について
1.はじめに
省エネが重視される昨今の製品設計において消費電力の評価はもちろん必要ですが、製造業は工場の消費電力自体が膨大であるため、システムや工場全体の定期的な管理および見直しが必要です。ここでは、デマンド電力や、瞬間消費電力を抑制することで得られるメリットと、その方法を紹介します。具体的に、射出成型機や押出成型機が複数台稼働する工場を例として対策を考えてみます。
2.デマンド電力について
電力会社との契約で言うところのデマンド電力(最大需要電力)とは、日本の場合30分間の平均使用電力量(kW)を指します。電気料金の基本料金は契約電力で決まります。契約形態にもよりますが、契約電力は当月を含む過去1年間におけるデマンド電力の最大値によって決まります。契約電力を超えてしまった場合は、契約超過金の支払いや契約電力の変更が発生する場合があります。デマンド電力の抑制により基本料金が安くなる場合もあるため、検討してみましょう。考えられる対策は以下のものがあります。
a) 主要動力部の効率化
b) シリンダの保温性能を上げる
c) 消費電力が低い部品を選定する
d) 成型機の同時稼働台数を制限して、稼働台数を平準化する
(a)~(c)は成型機メーカーが製品設計時に可能な対策となります。動力部の効率化や保温性能の向上は理想的ですが、簡単ではありません。成型機ユーザーにおいては、(d)のように装置の稼働時間をずらすことでも、比較的簡単にデマンド電力を抑えることができます。
モジュール型調節計SRZシリーズZ-TIOに搭載している「自動昇温機能」は、設定温度に到達するのが最も遅いゾーンの昇温に、他のゾーンの昇温を同期させる機能です。射出成型機において比較的熱容量の小さいノズル部分は焦げ付きやすいですが、自動昇温機能ならば焦げ付きを抑えながら装置を立ち上げることができます。また副次的な効果として、昇温の早いゾーンに対するムダな加熱を低減できるため省エネになり、さらに装置の昇温完了に30分以上を要する場合はデマンド電力の抑制に役立つことがあります。
※上図の縦軸は温度、横軸は時間を示しています。
3.瞬間消費電力について
瞬間的に発生する過大な電流は、電源波形の歪みやヒューズ断線などを引き起こす要因になり得ます。瞬間電力を抑えるだけでは平均電力を抑える効果は低いですが、品質を確保するためには留意しておきたいところです。考えられる対策は以下のものがあります。
a) 装置の電源投入や成型開始時など、消費電力のピークが重なるタイミングをずらす
b) シリンダの各ゾーンにおけるヒータのONタイミングをずらす
電力の消費タイミングを分散させるためには、システム全体でのシーケンス制御が必要となります。RKCで提供できるアプリケーションの代表としては、制御出力分配器 IOPDの「ピーク電力抑制機能」があります。温度調節計の制御出力と操作器(SSR)間に接続し、全CHでON状態が重ならないように電源の1サイクルごとに出力を分配制御します。これにより、各ゾーンにおけるヒータのONタイミングをずらし、瞬間的な電力の最大値を抑えることができます。
4.おわりに
本項では、デマンド電力は電気の基本料金に影響し、過大な瞬間消費電力は電源波形の歪みやヒューズ断線を引き起こす可能性があることを述べました。デマンド電力、瞬間消費電力のどちらにおいても言えることは、部品単体だけではなくシステムや工場全体など、出来るだけ広い視点で電力消費タイミングの分散を考えることが重要です。特に消費電力が大きい装置の稼働タイミングが極力重ならないようにしましょう。