技術解説

温度センサ(熱電対)を使って正しく温度測定を行うためのポイント

1. はじめに

接触式体温計を使った検温で正しく体温が測れなかった、という経験をした人は多いと思います。そして大抵の場合は、しっかりと腋に挟み込むといった、正しい検温のポイントを守れていなかったことが原因だったのではないでしょうか。

これは体温測定に限った話ではありません。工業用の温度センサと温度調節計を使った温度測定の場合も同じことが言えます。つまり、ポイントを押さえずに温度測定を行ってしまうと、正しい温度を得られないということです。

ここでは、工業用に広く用いられる温度センサである、熱電対と温度調節計を使った温度測定について、正しく温度を測るためのポイントを解説していきます。


2. 温度測定のポイント


2.1. 温度調節計

● 温度変化速度よりもサンプリング周期が速いものを選ぶ

温度調節計は温度測定をある一定の周期で行います。この周期はサンプリング周期と呼ばれます。サンプリング周期は基本的には温度調節計ごとに固定です(一部機種は設定によって変更することができます)。

サンプリング周期について注意が必要なのは、温度変化が速い対象の温度を測りたい場合です。温度変化の速度がサンプリング周期よりも速い場合、温度変化があったことを温度調節計が捉えることができません。このため、サンプリング周期は測定対象の温度変化速度よりも速い必要があります。

一方、温度変化が遅い対象の温度を測る場合や、温度が変化する様子を測定する必要のない場合は、温度調節計のサンプリング周期について気にする必要はありません。

2.2. 温度センサ(熱電対)

● 温度変化が速い場合は細い温度センサを使う

水を加熱してもすぐには沸騰しないように、温度センサもそれ自体の温度が変化するのには時間がかかります。このため、速い温度変化を測定したい場合には、径の細い温度センサを使う必要があります( ただし、温度センサの径が細くなるにしたがって、機械的な強度は弱くなり、最高使用温度も低くなるため、使用用途に応じたセンサを選定してください)。

これは、温度センサの径が細くなるにしたがって、温度センサ自体がより温まりやすく(冷えやすく)なるためです(詳しくは温度の測定方法についてをご覧ください)。

また、温度調節計のサンプリング周期と同様に、温度変化が遅い対象の温度を測る場合や、温度が変化する様子を測定する必要のない場合は、温度センサの径について特に気にする必要はありません。

2.3. 設置環境

● 測定対象と十分に接触させる

測定対象の温度を正確に測るためには、測定対象の温度とセンサの温度が等しくなっている必要があります。そして、測定対象とセンサの温度が等しくなるためには、両者が十分に接触している必要があります。

例えば、物の表面の温度を測る場合には、ST-50のような貼り付け式の温度センサを使ったり、金属テープのような熱伝導率の高いもので温度センサを表面に固定するなどの工夫をすると、より正確に温度を測ることができます。

一方で、電子部品など小さなものの温度を測る場合はさらに注意が必要です。測定対象と温度センサを接触させることによって、温度センサが放熱器として働き、測定対象の温度が変化してしまうからです。測定対象の温度が変化してしまうと、当然、正しく温度を測ることはできません。

このような場合、径が細く、短い温度センサを使用するなどして、温度センサを通して熱が出ていかない(または入ってこない)ようにする必要があります。

● 補償導線は使用温度範囲内で使用する

温度を測定したい箇所と温度調節計が遠く離れている場合、コストの問題などから、熱電対の一部を補償導線で代用することがあります。

このとき注意しなければならないのは、補償導線の両端(温度調節計や熱電対との接点)の温度です。補償導線は熱電対によく似た特性を持っていますが、これは使用温度範囲内に限っての話です。高温や低温の環境下では、熱電対と補償導線の特性の違いが顕著になり、温度を正しく測ることができなくなってしまいます。

したがって、補償導線は、両端が使用温度範囲内の環境で使用することが大切です。

● 温度調節計の端子部分に風が当たらないようにする

熱電対はその原理から、センサの先端と温度調節計の端子部分の温度差を測ることしかできません。センサ先端の温度を知るためには、温度調節計の端子部分が何度になっているか測定し、熱電対から得られた温度差に端子部分の温度を加える(冷接点温度補償)必要があります。温度調節計には、この冷接点温度補償を行うための温度センサが端子付近についています。

ここで、端子部分に風が当たるなどして端子部分の温度が急激に変化すると、実際の端子部分の温度と冷接点温度補償用 温度センサの温度にズレが生じます。すると、実際には測定対象の温度が変化していなくても、測定温度が変動してしまいます。

このため、端子部分には風が当たらないようにカバーを付けるなどして、端子部分の温度が一定になるようにします。


3. おわりに

温度を正しく測るポイントについて説明しましたが、ここで説明したのはあくまでも一般的な話です。測定する対象や目的によって、注意すべきポイントは変わってきます。そのような場合でも正しく温度を測るためには、やはり温度調節計や温度センサに対する基礎知識が不可欠です。

この技術解説ページには、温度調節計や温度センサの基礎知識を身に着けるためのコンテンツが用意してあります。また、弊社では訪問またはオンラインでの技術セミナー電話メールZoomを使っての技術サポートも行っておりますので、ぜひご活用ください。